ロレックスが採用したアイスブルー文字盤や、パテック フィリップがティファニーとのパートナーシップ締結170周年を記念して限定生産したティファニーブルー文字盤で注目を集め、2022年現在、新たなトレンドカラーとして人気急上昇中のアイスブルー。今回は2022年1月から6月の上半期に発表された、アイスブルーの文字盤を採用する新作を一挙に紹介する。
新たなトレンドカラーは人気急上昇中のアイスブルー
近年は腕時計のトレンドカラーが新作モデルに顕著に表れるようになった。ブルー、グリーンと来て、2022年は間違いなくアイスブルーである。
このトレンドの火付け役となったのは、2020年に発表されたロレックス「オイスター パーペチュアル 41」のターコイズブルーモデルと、2021年に話題をさらった、ティファニーブルー文字盤のパテック フィリップ「ノーチラス」だろう。著名な大手ブランドが立て続けに採用したことでも世界的な話題となり、腕時計に爽やかな印象を与えるアイスブルーは、1〜2年の間でたちまち人気色となった。だが、最も早くアイスブルー文字盤をリリースしたのは、ロレックス「コスモグラフ デイトナ」のプラチナケースで、俳優の木村拓哉さんも愛用している。
パテック フィリップ「ノーチラス 5711/A-018」は、ティファニーとのパートナーシップ170周年を記念したモデルで、170本のみが製作された。ティファニーブルーという絶妙な色をこの時計で実現したのは、パテック フィリップ傘下の文字盤メーカーであるフルッキガー。文字盤表面の凹凸をしっかり残しつつ、均一な色味にするために採られた手法は、薄塗りのラッカー塗装だ。
また、このトレンドの背景には、文字盤を含む外装の製造技術が向上していることが大きく関係する。その結果、腕時計ブランドは新作モデルに個性的な色味と質感を与えやすくなり、表現の幅が広がったのだ。今回は文字盤の質感や仕上げに焦点を当て、2022年1月〜6月に発表された新作を製法別に紹介する。
皮膜による光沢感が魅力のコーティング文字盤
アイスブルー文字盤を製造するうえで多く用いられる手法のひとつがメッキやPVDである。硬質皮膜を金属に蒸着させるPVDによる文字盤は、すべてに共通して美しい金属光沢を持っている。皮膜が極めて薄いため、サンレイやギヨシェなどの仕上げと併用するには最適である。PVDによるコーティングの処理は、窒素などの不活性ガス中でアルミニウムやバナジウム、モリブデンなどの金属を表面に蒸着させる化学的な処理だ。膜が硬く丈夫であるが故に、激しい動きを想定したスポーツウォッチなどの“実用時計”の外装に多く見られる。写真は2022年4月に発表されたロレックス「オイスター パーペチュアル デイデイト 40」の文字盤。ロレックスはこの「アイスブルー」と称す文字盤のカラーを、プラチナ製の一部モデルにのみ採用する。
ロレックス
ロレックス「オイスター パーペチュアル デイデイト 40」
自動巻き(Cal.3255)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。Ptケース(直径40mm)。100m防水。価格要問い合わせ。
ロレックスを代表する「オイスター パーペチュアル デイデイト」の新作は、初めてフルーテッドベゼルにまでプラチナを採用したことがトピックだ。ロレックスにとっての特別なシグネチャーとして確立された透明感のあるアイスブルー文字盤は、ホワイトゴールド素材と比較してより白い輝きを放つプラチナとの相性が良く、表面に施されたサンレイ仕上げが上品に放射状の光を反射する。
グランドセイコー
グランドセイコー「ヘリテージ コレクション 44GS 55周年記念限定 クオーツ特別精度モデル」SBGP017
クォーツ(Cal.9F85)。SSケース(直径40mm、厚さ10.7mm)。10気圧防水。世界限定2000本。44万円(税込み)。
日本の美意識を取り入れた文字盤表現に注力するグランドセイコーは、自然界から着想を得たバリエーション豊かな文字盤を複数展開する。本作は1967年初出の44GSの誕生55周年を祝う限定モデルで、信州で見られる壮大な雲海をモチーフとしている。立体的かつ繊細な文字盤表面のパターンは型押しによるもの。手作業で仕上げた金型を複数回押し当て、メッキと塗装、そして磨きをかけることで完成するのだ。
セイコー プロスペックス
(左)セイコー プロスペックス「1965 メカニカルダイバーズ 現代デザイン Save the Oceanモデル」SBDC165
自動巻き(6R35)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径40.5mm、厚さ13.2mm)。200m空気潜水用防水。14万8500円(税込み)。
(右)セイコー プロスペックス「1968 メカニカルダイバーズ 現代デザイン Save the Oceanモデル」SBDC167
自動巻き(6R35)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径42mm、厚さ12.5mm)。200m空気潜水用防水。14万8500円(税込み)。
1965年、68年、70年に誕生した歴史的なダイバーズウォッチを、現代的に解釈した3本のモデルが今年、セイコー プロスペックスに加わった。極地に広がる氷河に着想を得たデザインコンセプトはすべて共通だが、文字盤がライトブルーなのはそのうちの2本だ。切り立った氷河を表現した縦方向のランダムなパターンは、グランドセイコーの文字盤同様、型押しによって作られる。
ブライトリング
(左)ブライトリング「トップタイム トライアンフ」
自動巻き(Cal.B23)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。SSケース(直径41mm、厚さ14.27mm)。3気圧防水。63万9100円(税込み)。
(中)ブライトリング「スーパークロノマット B01 44」
自動巻き(Cal.01)。47石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径44mm、厚さ14.4mm)。20気圧防水。132万円(税込み)。
(右)ブライトリング「ナビタイマー B01 クロノグラフ 43」
自動巻き(Cal.01)。47石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径43mm、厚さ13.6mm)。3気圧防水。107万2500円(税込み)。
ブライトリングは2022年上半期で3本のモデルにアイスブルー文字盤を採用した。「トップタイム トライアンフ」は蝶ネクタイをイメージした「ゾロダイアル」が特徴で、イギリスのバイクブランド、トライアンフの「サンダーバード6T」を彷彿とさせるカラーだ。縦方向にヘアラインを入れてコーティングし、クリアのラッカーを吹き、その上からインデックスなどを印字しているため、表面に多層感が生まれている。また「スーパークロノマット B01 44」と「ナビタイマー B01 クロノグラフ 43」は、コレクションのイメージを一変させるほどの明るいブルーを採用。放射状のサンレイ仕上げで、かなりの艶がある。
フランク ミュラー
フランク ミュラー「ヴァンガード マリナー V41」
自動巻き。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(縦50×横41mm)。日常生活防水。139万7000円(税込み)。
クルーザーでの航海をテーマにしたフランク ミュラーの「ヴァンガード マリナー V41」こそ、夏の海で“映える”1本だろう。既存の「ヴァンガード マリナー V45」から縦横3mmずつサイズダウンさせた新シリーズである。手の込んだ作りの文字盤中央は、航海の指針となる古典的な方位計をモチーフとしたデザイン。3時と9時位置のインデックスは、数字に代えて“East”と“West”を示す英文字がポイントだ。
チャペック
チャペック「アンタークティック パサージュ・ドゥ・ドレーク グレイシャー ブルー」
自動巻き(Cal.SXH5)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約56時間。SSケース(直径40.5mm、厚さ10.6mm)。120m防水。294万8000円(税込み)。
チャペックに大変化をもたらした「アンタークティック」コレクションに加わったレギュラーモデル。アンタークティックの文字盤は複数のバリエーションが用意されるが、本作はドレーク海峡の氷河をイメージし、PVDによる明るいブルーが特徴で、「Stairway to Eternity(永遠への階段)」と名付けられたパターンが施されている。台形が重なるような規則的にエングレーブされた表面は影を作り出すほどに深みがある。
ティソ
ティソ「ティソ PRX クォーツ 35mm」
クォーツ(Cal.10 1/2”)。3石。SSケース(直径35mm、厚さ9.67mm)。10気圧防水。5万6100円(税込み)。
人気を誇るティソ PRXコレクションに追加された、ケース径35mmの新シリーズ。4モデル中のひとつがこのグレイッシュなアイスブルー文字盤で、非常にシルバーに近い薄い色味だ。サンレイ仕上げの文字盤はもちろん、オリジナルを再解釈したケースや一体型のブレスレットの仕上がりは、価格以上のクォリティである。
ボールウォッチ
ボールウォッチ「エンジニア Ⅲ マーベライト クロノメーター」
自動巻き(Cal.BALL RR1103-C)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径40mm、厚さ13.2mm)。100m防水。28万6000円(税込み)。
ボールウォッチ エンジニアコレクションの最新作。904L ステンレススティールを外装に使用し、8万A/mの磁気に耐える「アンチマグネティック機能」や、マイクロ・ガスライトで自発光する針とインデックス、C.O.S.C.認定クロノメーターで高い精度を保証するなど、実用において重宝する要素を盛り込んだ注目モデルだ。アイスブルーカラーのサンレイ文字盤が光沢感を生んでいる。
エドックス
エドックス「クロノオフショア1 クロノグラフ」
クォーツ(Cal.EDOX102)。Tiケース(直径45mm)。1000m防水。23万1000円(税込み)。
パワーボートレースの迫力ある世界観を取り入れた、エドックスの基幹コレクションが「クロノオフショア1」だ。1000m防水を誇る直径45mmのマッシブなケースと、3.5mm厚のセラミックス製ベゼルが目を引く本作の文字盤はマリンブルー。ボートレースの舞台である陽の光を浴びてきらめく海をイメージしており、外周から中央にかけて明るくなるグラデーション加工が施されている。
目を引く鮮やかな色調が特徴のラッカー文字盤
アイスブルーの文字盤に採用されるもうひとつの手法がラッカー塗装によるものだ。文字盤の表面に塗料を複数回塗り重ねるラッカー塗装は厚みが出るため、サンレイやギヨシェとの併用は難しい。その代わり、塗料の色をそのまま文字盤の色として出せるため、特に鮮やかな色味のライトブルー文字盤との相性は良い。
また多くの場合、ラッカー仕上げの文字盤は平面である。近年の高級時計で増えているのはポリッシュラッカーで、ラッカー塗装を重ねた後、表面を研磨剤などで磨き上げるというもの。塗料の製造技術の進化により、耐久性も格段に向上している。美しい仕上げに定評のあるグランドセイコーの文字盤に多く採用されるラッカー仕上げ。文字盤の色を吹き付けた後、非常に厚いクリア(透明な塗料)を重ねるのが特徴である。写真は「ヘリテージコレクション 銀座限定2022モデル」の文字盤。ここまで鮮やかなパステルカラーは、グランドセイコーでは異色である。
グランドセイコー
グランドセイコー「ヘリテージコレクション 銀座限定2022モデル」SBGH297
自動巻き(Cal.9S85)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径40mm、厚さ12.9mm)。10気圧防水。銀座限定260本(グランドセイコーフラッグシップブティック 銀座など5店舗のみで販売)。77万円(税込み)。
グランドセイコーでは異例とも言うべき、鮮やかな“空色”文字盤を採用した、銀座エリアの取扱店舗限定モデル。「銀座の昼下がりの高揚感」を表現した文字盤には、銀座に張り巡らされた街路をモチーフにした「銀座グリッドパターン」が施されている。ラッカー仕上げの研ぎ出された文字盤表面からは手間暇を感じさせる。
スウォッチ
スウォッチ「ムーンスウォッチ Mission to Uranus」
クォーツクロノグラフ。バイオセラミックケース(直径42mm、厚さ13.25mm)。30m防水。3万3550円(税込み)。
誰もが予想しなかったスウォッチとオメガとのコラボレーションと、スピードマスターモチーフの遊び心の効いたデザインで、世界的な話題となっている「ムーンスウォッチ」。太陽系の惑星がテーマで11種類をラインナップするが、ウラヌス(天王星)モデルはアイスブルー文字盤が採用されているためか特に人気だ。ストアを訪れて希望のモデルを買えない状況は、もうしばらく続くであろう。
モーリス・ラクロア
(左)モーリス・ラクロア「アイコン タイド」
クォーツ。プラスティック×グラスファイバーケース(直径40mm)。100m防水。8万8000円(税込み)。
(右)モーリス・ラクロア「アイコン タイド」
クォーツ。プラスティック×グラスファイバーケース(直径40mm)。100m防水。10万2300円(税込み)。
モーリス・ラクロアの人気作、アイコンコレクションに加わったポップなカラーリングの「アイコン タイド」。海岸などで回収された海洋ゴミを再利用したリサイクルプラスティックと、グラスファイバーを組み合わせた複合素材を外装に採用するエコ仕様だ。文字盤は「ジュラ山脈ウェーブ」と称するパターンが施されており、ケースと同じ色にペイントされている。
今後も注目のアイスブルー文字盤
続々と登場するアイスブルーの文字盤を採用する新作モデルの数々。本記事では2022年上半期(1月〜6月)に発表されたモデルに絞って紹介したが、その充実ぶりは勢いを増すばかりである。人気色であるが故に、ロレックスやグランドセイコーの一部モデルは非常に買いづらい状況だからこそ、他の選択肢に目を向けるには絶好のタイミングだろう。
今年の年末には下半期(7月〜12月)発表モデルも紹介する予定だ。老舗ブランドも参入するこのトレンドカラーはますます要注目だ。